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意思決定支援について

はじめに

2000(平成12)年に創設された成年後見制度においては、本人の財産保全だけでなく、本人への意思決定支援や身上保護といった福祉的な観点が重視されています。

民法においても858条、876条の5第1項、876条の10第1項において、後見人等が本人の意思を尊重し、その心身の状態及び生活の状況に配慮することが求められています。

成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮)

第858条 成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。

(保佐の事務及び保佐人の任務の終了等)

第876条の5 保佐人は、保佐の事務を行うに当たっては、被保佐人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。

(補助の事務及び補助人の任務の終了等)

第876条の10 第六百四十四条、第八百五十九条の二、第八百五十九条の三、第八百六十一条第二項、第八百六十二条、第八百六十三条及び第八百七十六条の五第一項の規定は補助の事務について、第八百二十四条ただし書の規定は補助人が前条第一項の代理権を付与する旨の審判に基づき被補助人を代表する場合について準用する。

各方面における意思決定支援ガイドライン

これまで障がい者福祉、高齢者福祉、医療といった各方面において、様々な意思決定支援のガイドラインが作成されてきています。

2017(平成29)年

障害福祉サービス等の提供に係わる意思決定支援ガイドライン

2018(平成30)年

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン

「人生の最終段階における医療ケアの決定プロセスに関するガイドライン

2019(平成31)年

「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン

「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン

2016(平成28)年に施行された成年後見制度利用促進法に基づく成年後見制度利用促進基本計画において、後見人等が本人の特性に応じた適切な配慮を行うことができるよう、意思決定支援の在り方についての指針作成に向けた検討を行うこととされていました。

この方針のもと、成年後見制度における意思決定支援に関して、2020(令和2)年10月に「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」が策定されました。

①意思決定支援とは

本人の意思決定をプロセスとして支援するものであり、本人が意思を形成することへの支援である意思形成支援と、本人が意思を表明することへの支援である意思表明支援及び形成され表明された意思をどのように実現するかという遺志実現支援があります。

②意思決定支援と代行決定

意思決定支援が尽くされたとしても、本人の意思決定が困難な場合や本人の意思表明が本人にとって重大な影響を生じる可能性が強い場合には、後見人等が本人に代わって決定することになります。

これを代行決定といいます。

「重大な影響」がある場合には、本人の意思よりも代行決定が優先されることになりますが、その際の「重大な影響」とは、次の要件によって判断されます。

(ア)本人が他に取り得る選択肢と比較して、明らかに本人にとって不利な選択肢であること。

(イ)一旦、発生してしまうと回復困難なほど重大な影響を生ずること。

(ウ)発生の可能性に確実性があること。

代行決定をする場合でも、明確な根拠に基づき、合理的に推定される本人の意思に基づき行動することが基本となります。

③意思決定能力とは

支援を受けて自らの意思を自分で決定することができる能力ですが、次の4つの要素が必要です。

(ア)情報を理解する。

(イ)情報を記憶として保持する。

(ウ)選択肢の中で比較検討することができる。

(エ)自分の意思を表現することができる。

ガイドラインの原則

(1)意思決定支援の原則

第1:意思決定能力の存在推定

  どのような人であっても、本人には決める力があるという前提で関わること。

第2:本人による意思決定のための実行可能なあらゆる支援の必要性

  あらゆる実行可能な支援を尽くさなければ代行決定に移行してはならないこと。

第3:不合理と見える意思決定でも、それだけで本人に意思決定能力がないと判断してはならない

  本人が行った不合理に見える決定も尊重されるべきであるということ。

(2)代行決定の基本原則

第4:推定意思に基づく代行決定

  代行決定に移行する場合でも、明確な根拠や合理的に推定される本人の意思(推定意思)に基づき行動すること。

第5:本人にとっての最善の利益に基づく代行決定

  本人の意思が推定できない場合や、表明された意思が本人にとって見過ごすことのできない重大な影響を生ずる場合でも、本人の信条、価値観、選好を最大限尊重すること。

第6:代行決定の限定行使

  代行決定の場合でも、本人にとって最も制限が少ない手段を検討すること。

第7:意思決定支援の第1の原則に立ち返る

  代行決定を行ったとしても、次の意思決定の場合には、第1の原則である「本人には決める力がある」という前提に立ち返ること。

⑤一般的な意思決定支援の局面の例

(ア)施設への入所契約など、本人の居所に関すること。

(イ)自宅や高額資産の売却といった法的に重要な決定。

(ウ)特定の親族に対する贈与、経済的援助、  など

おわりに

これまで、ともすれば支援を必要としている人が知的障がい者であったり、認知症の高齢者であったりすることから、本人の意思を軽く扱ってしまう場合があるようです。

しかし、どんな人にも、本人には決める力があり、あくまでも本人の意思を尊重することが重要であり、代行決定は慎重の上にも慎重に行使することが大切であるということをガイドラインは示しているようです。