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成年後見人の事務について

はじめに

民法858条において「成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。」と定められています。

成年後見人の事務は、「生活、療養看護」に関する事務と「財産の管理」に関する2つの分野ということです。

Ⅰ.身上監護について

【1】身上監護とは

身上監護とは、法律上の言葉ではありませんが、民法にある「生活、療養看護」に関する行為を意味するものとされており、身上保護という場合もあります。

【2】身上監護の範囲について

身上監護とは、契約の締結や解除、契約の実行状況の確認、費用の支払い、必要な申請手続き、異議申し立て、苦情申し立てといった、主として法律行為を行うことです。

①医療に関する契約(受診、治療、入院)や費用の支払い

②本人の住宅確保に関する契約や費用の支払い

③施設の入退所に関する契約や費用の支払い及び施設での処遇についての監視や異議申し立て

④介護や生活維持に関する契約や費用の支払い

⑤教育やリハビリに関する契約や費用の支払い

⑥要介護や障がい区分認定の申請や立ち合い

⑦本人の心身の状態や生活状況の見守り活動  等々

【3】身上監護に含まれないもの

①介護を受けられるように手続きはしますが、現実の介護はしません。介護は介護の専門家がします。

②手術などの医療行為への同意や身元引受人といったことには権限が及びません。

③臓器提供、尊厳死、延命治療やその中止、結婚といった一身専属的な事項には権限が及びません。

④住む場所の指定といった居所指定権はありません。

⑤日用品の購入、その他日常生活に関する行為は本人が行うことができます。

【4】身上監護における留意点

①住居を処分しなければならない場合は、家庭裁判所に相談した上で申立てます。家庭裁判所の許可が必要です。

②医療行為への同意はできませんが、誰も同意できる人がいない場合は、本人への意思決定を支援したり、医師や関係者とよく相談します。

③身元引受人・身元保証人にはなれませんが、施設や病院が身元引受や身元保証に期待していることをよく確認し、関係者と相談します。

④死後の引き取り、遺品の引き受けは相続人がすることです。

【5】施設等における処遇について

①身体的拘束は禁止です。ただし、利用者の生命又は身体を保護するために緊急やむを得ない場合で、切迫性・非代替性・一時性の3要件を満たす場合は、例外的に認められます。

特別養護老人ホーム介護老人保険施設身元保証人を入所の要件とすることは厚生労働省令違反であり、病院では医師法違反となります。

身元保証人がいないからといって、入所・入院を拒否することはできません。

Ⅱ.財産管理について

被後見人の財産は、本人のために使わなければなりません。後見人の財産管理は、本人の生活の糧である資産の使い方としては、身上監護を目的とする支出を優先することを前提にして、次のような業務を行います。

①不動産・預貯金・現金などの財産の管理・保存・処分等に関すること。

②年金・生活保護等の公的資金援助の申請や受領に関すること。

③金融機関との取引を行いますが、事前に後見人就任の届を出しておきます。

④不動産収入など定期的な収入があれば、その受領や費用の支払い。

⑤必要な送金や物品の購入に関すること。

⑥生命保険や損害保険に関すること。

⑦通帳、証書といった重要書類や印鑑等の保管。

法定相続分遺留分の確保といった相続に関すること。 等々

おわりに

後見人の事務としては、身上監護と財産管理の2つの分野となります。事務を遂行する上で大切なことは、本人の意思を尊重し、本人の利益を守ることです。

現実には難しい問題もあるかと思いますが、関係者との協議を重ねながら最善を尽くすことが求められているのではないでしょうか。