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身寄りがない人への医療に係る支援ガイドライン

はじめに

厚生労働省の補助事業によって、身寄りがない人への医療に係る支援について研究がなされ、2019(令和元)年に「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」として公表されています。

高齢社会にあって、医療機関においても身寄りのない患者にどう対応するかが大きな問題となってきている中で、事例を含めて具体的な対応策が示されています。

【1】背景

少子高齢化の進展の中で、単身世帯や親族がいない人の増加といった状況が見られます。どのような状況であっても、その人の意思が尊重され、安心して医療が受けられるようにしていくことが求められます。

これまでは家族がいることを前提として、医療機関は家族に同意書へのサインや入院費の支払い、緊急時の連絡先といった、いわゆる「身元保証・身元引受」を求めてきました。

しかし、たとえ家族等の身寄りがいなくても、医療機関によって適切な医療の提供ができるようにガイドラインがまとめられています。

加えて、医療現場における成年後見人等の役割やかかわり方についても整理されました。

【2】ガイドラインの対象者

医療機関を受診・入院した患者で、身寄りがいない人、家族や親類に連絡がつかない人、家族の支援が得られない人について、どうすればよいのか考察しています。

【3】医療機関における「身元保証・身元引受」の役割

医療機関としては、上記①~⑥についてどうすればよいのかということは重要な事柄です。家族がいれば家族が対応する事柄ですが、もし身寄りがいない場合にどうするか、医療機関にとっては悩ましい問題です。

①緊急の連絡先に関すること

②入院計画に関すること

③入院中に必要な物品の準備に関すること

④入院費等に関すること

⑤退院支援に関すること

⑥亡くなった場合の遺体・遺品の引き取りや葬儀に関すること

なお、医療行為についての同意は本人の一身専属性が強いものであり、「身元保証人・身元引受人」といった第三者に委ねられるものではないといわれています。

【4】本人への意思確認と尊重

医療法第1条の4第2項では「医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。」とされており、本人の判断能力にかかわらず適切な情報の提供と説明がなされなければなりません。

判断能力が不十分な人であったとしても、本人には意思があり意思決定能力を有するということが原則です。

本人の意思決定能力は①理解する力②認識する力③論理的に考える力④選択を表明できる力によって構成されていると考えられています。

意思決定能力は病状・環境等によって変化することもあり、固定的に考えることなく本人の状況に応じて支援します。

【5】成年後見制度と「身元保証・身元引受」

身寄りがない人が成年後見制度を利用している場合、成年後見人等は民法の規定により、本人の財産管理や、本人に代わって医療・介護・福祉サービス等の契約を行うことができます。

成年後見人等であるかどうかを確認するためには、成年後見人等に係る「登記事項証明書」で確認します。

成年後見人等が後見等の事務を行うために必要な費用は、被後見人の財産から支弁することとされているため、成年後見人等が本人の債務の保証人になることは適切でないとされています。

【6】成年後見制度を利用している場合の医療機関による具体的対応

①緊急連絡先について

親族がいる場合もあるので、親族や成年後見人等の間で確認してもらいます。

②入院計画について

本人が理解できるように説明を行うとともに、診療契約の代理権を有する成年後見人等にも内容の確認を求めます。

③入院中に必要な物品の準備について

入院に必要な物品を準備するといった事実行為は成年後見人等の業務ではありませんが、これらを行う有償サービスを手配することは成年後見人等の業務となります。

④入院費等に関すること

成年後見人等が本人の財産から思弁します。なお、成年後見人等が保証人として入院費を負担することはありません。

⑤退院支援に関すること

転退院する場合の医療・介護・福祉サービスの契約は成年後見人等の業務となります。ただし居室の明け渡しや転退院の付き添いのような事実行為は成年後見人等の業務ではありませんが、これらを行うサービスを手配することは成年後見人等の業務となります。

⑥亡くなった場合の遺体・遺品の引き取り・葬儀等に関すること

法定後見制度には後見・保佐・補助の3類型があります。このうち後見類型については、家庭裁判所の許可によって成年後見人が一部の死後事務を行うことができます。

おわりに

身寄りのない入院患者にどう対応するのかは、医療機関にとって重要な課題です。行政や包括支援センターとの連携や成年後見制度の利用といった様々な仕組みを活用することで、必要とされている医療や介護が受けられるような体制を整えて欲しいものです。

身寄りがない人への対応について |厚生労働省 (mhlw.go.jp)