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成年後見における行政書士の倫理について

はじめに

成年後見人等は、被後見人の身上監護及び財産管理といった、被後見人が生活をする上での重要な部分を担うこととなります。被後見人に対する重大な職責を負っていますが、残念ながら、不正な財産管理といった問題が発生することがあります。このような不正が行われた場合、成年後見制度そのものに対するイメージが悪化し、何よりも不正によって被害を受けた被後見人が重大なダメージを被ってしまいます。

このため成年後見人等は高い倫理観をもって、誠実に職務を遂行する必要があります。

【1】行政書士の責務

行政書士法第10条には行政書士の責務について、次のように記されています。

第10条 行政書士は、誠実にその業務を行なうとともに、行政書士の信用又は品位を害するような行為をしてはならない。

行政書士には、法令を遵守し、信用失墜行為をしてはならないという高い職業倫理が求められています。もちろん倫理的なことだけでなく、不正を行った場合は、民事責任や刑事責任も課せられてきます

【2】行政書士倫理

日本行政書士会連合会(日行連)のHPによると「行政書士の使命は、行政に関する手続の円滑な実施に寄与するとともに、国民の利便に資し、もって国民の権利利益の実現に資することにある」とされています。

このような「国民の権利利益」を実現するために行政書士会は、1979(昭和54)年に「行政書士倫理綱領」を、加えて2006(平成18)年には「行政書士倫理」を制定しています。

高い職業倫理感をもって職務にあたらなければならないことを、行政書士自らが掲げています。

【3】成年後見制度における理念

成年後見制度における理念は、①自己決定権の尊重②残存能力の活用③ノーマライゼーションとされています。

成年後見人等は、3つの理念に則って本人の身上監護・財産管理に努めることとなります。その際、被後見人等は判断力が欠けていたり不十分であるといった状態にはありますが、本人の残存能力を活用しながら、本人の意思を尊重することが求められています。本人の意思決定を支援しながら、本人の納得する自己決定に導いていくことが大切だということです。

また、保護するためには本人の自己決定に委ねることがふさわしくない場合もあるので、自己決定と保護のバランスを常に考慮する必要があるようです。

【4】成年後見業務と行政書士の倫理

専門家か、親族か、法人か個人か、誰が後見人等として妥当なのかは、家庭裁判所が決定します。行政書士として、成年後見人等に選任された場合の留意点です。

成年後見人等は親族以外が選任される場合が多く、親族や利害関係者の意向に左右されることなく、本人の意思や最善の利益を優先させます。

行政書士として成年後見制度の理念をよく理解したうえで、丁寧にわかりやすく説明し助言する。

③高齢者・障害者と同じ目線に立ち、相談しやすく、信頼されるように努める。

④財産管理は厳格に行う。

⑤原則、本人の死亡によって後見業務は終了しますが、長期に渡り本人の人生に寄り添うという認識を持って良好な人間関係を構築していく。

【5】成年後見人等の法律上の義務

①本人の意思尊重義務及び身上配慮義務が民法858条にあります。

第858条 成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。

②後見事務にあたっては「善良な管理者の注意義務」があります。もし怠ると、義務違反による過失が認められることになります。

第644条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

第869条 第644条及び第830条の規定は、後見について準用する。

③財産目録作成義務等

財産目録作成義務等の民法上の義務があります。

第853条 後見人は、遅滞なく被後見人の財産の調査に着手し、一箇月以内に、その調査を終わり、かつ、その目録を作成しなければならない。ただし、この期間は、家庭裁判所において伸長することができる。

おわりに

成年後見制度においては、行政書士に限らず、成年後見人等に選任された場合は、本人のためを第一義として後見事務を行うことが大切です。そのためにも高い倫理観と使命を持って職務を遂行することが大切であると感じました。