はじめに
2016(平成28)年、「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が成立・施行されました。
【1】改正法のポイント
法改正のポイントは以下の2点ですが、いずれも成年後見のみを対象としており、保佐・補助・任意後見及び未成年後見には適用されません。
①郵便物等の転送の仕組み
成年後見人が家庭裁判所の審判を得て、成年被後見人宛ての郵便物等を受け取ることができるようになりました。
成年後見人が成年被後見人の死亡後に行う事務の内容及び手続きが明確化されました。
【2】成年後見人による郵便物等の管理について
①郵便転送の制度
成年後見人が成年被後見人宛ての郵便物(株式の配当・外貨預金やクレジットカードの明細)の存在や内容を把握することができない場合、適切な財産管理に支障をきたす恐れがあります。
このため成年後見人の必要がある場合、家庭裁判所の審判を得て、成年被後見人宛ての郵便物等を成年後見人の住所又は事務所に郵便転送することができます。
転送の期間は6か月を超えないということで、通信の秘密にも配慮しています。
②郵便物等の扱い
「成年後見人は、成年被後見人に宛てた郵便物等を受け取ったときは、これを開いて見ることができる。」(民法860条の3第1項)とありますが、後見事務に関係ないものについては成年被後見人に渡さなければなりません。
【3】死後事務関係
①死後事務とは、成年被後見人の死後に成年後見人が行う事務のことです。具体的には遺体の引き取り、火葬、成年被後見人の医療費や入院費・公共料金等の支払いです。
成年歩後見人が死亡すれば成年後見は終了します。しかし実務上は、死亡後の事務を執らなければならない場合が生じてきたりします。このため、死亡後に一定の範囲の事務を行うことができるように明確化されました。
②死後事務の種類(民法873条の2)
一、個々の相続財産の保存に必要な行為
債務者に対する請求や建物を修繕する行為などです。
二、弁済期が到来した債務の弁済
医療費、入院費、公共料金の支払い等です。
三火葬や埋葬に関する契約、その他相続財産の保存に必要な行為
遺体の火葬に関する契約、トランクルームの契約、電気・ガス・水道等の契約解除、債務を弁済するための預貯金の払い戻し等です。
③死後事務の要件
民法873条の2第一号から第三号にある死後事務を行うためには、次の要件が必要です。
(ア)成年後見が事務を行うこと。
(イ)相続人が相続財産を管理できる状態でないこと。
(ウ)相続人の意志に反してないこと。
(エ)民法873条の2第三号の場合には、家庭裁判所の許可が必要になります。
④その他
(ア)遺骨の引き取り手がいない場合、火葬した後の納骨について家庭裁判所が判断します。
(イ)後見事務の一環として成年被後見人の葬儀を執り行うことはできません。
おわりに
成年後見に関して、あいまいであった部分を法的に明確にされたことは、実務を行う上で重要なことです。しかし、実際にはまだまだ多くの事柄で判断を迷いながら成年後見人の方々は、日々の実務をこなしているのではないでしょうか。