はじめに
かつて民法を学び始めたころ、「隣の木が伸びて自分の土地に越境した時には、根は切ってもいいけど枝は勝手に切ってはダメ。」という条文があって、なぜなのかな?と不思議に思ったものです。
今回、2021(令和3)年の民法改正によって変わることになり、2023(令和5)年4月1日より施行されます。
【1】旧民法
(竹木の枝の切除及び根の切取り)
第233条 隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
2 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。
旧民法では、越境した竹木の枝は、所有者に頼んで切ってもらわなければならず、自分で切り取ったりすることはできませんでした。
頼んでもやってもらえない場合には、裁判所に訴えてから強制執行ということになります。
また、所有者が複数いるような場合は、すべての所有者の了解を得る必要があります。もし所有者に連絡ができなかったり不明な場合はどうすることもできないというような事態になってしまいます。
昨今、空き家が増加していく中で、このような問題が生じてきているようです。
【2】新民法
(竹木の枝の切除及び根の切取り)
第233条 土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
2 前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。
3 第一項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。
一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当 の期間内に切除しないとき。
二 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
三 急迫の事情があるとき。
4 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。
改正民法によって「1.竹木の共有者各自による枝の切除」「2.土地所有者による枝の切り取り」ができるようになりました。
1.竹木の共有者各自による枝の切除(第233条2項)
竹木が共有の場合、各共有者は、その枝を切り取ることができるようになりました。
複数の共有者がいたとしても、催告された誰か一人の共有者が枝を切除することができます。また、共有者の誰か一人から承諾を得れば越境された土地の所有者は枝を削除できます。
従前のように共有者全員の同意が必要ではなく、単独で切除できるようになりました。
2.越境された土地所有者による枝の切り取り(第233条3項)
①越境された土地所有者は、次の場合は枝を自ら切り取ることができます。
一.竹木の所有者に催告したにもかかわらず、相当の期間内に切除しない場合。隣地が共有地である場合、基本的には共有者全員に催告する必要があります。「相当の期間」というのは2週間程度と考えられています。
二.竹木の所有者が誰で・どこにいるのかわからない場合。登記簿、住民票といった公的な書類で確認する必要があります。
三.急迫の事情がある場合。台風といった自然災害が予測されるような場合が考えられます。
3.越境された土地所有者が枝を切り取った場合の費用を請求できる。
枝が越境して土地所有権を侵害していること、竹木の所有者の枝の切除義務が免れていることから、竹木の所有者に請求できると考えられています。(703条・709条)
4.越境した枝を切り取るのに必要な範囲で隣地を使用できる。
(隣地の使用)
第209条 土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできない。
一 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕
二 境界標の調査又は境界に関する測量
三 第二百三十三条第三項の規定による枝の切取り
おわりに
越境している竹木の処理について、より現実的な解決内容の法が施行されました。
ただ、越境しているからといって安易に切除しようとしたり、そもそも隣地との境界が曖昧であったりすることがあるので、慎重に考える必要があるようです。