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市町村における市民後見人養成への取り組み

はじめに

A市では、これまで身寄りのない高齢者や虐待を疑われる高齢者などの場合、市長が家庭裁判所成年後見人等の選任の申立てを行っています。また、報酬を支払うことの困難な方を対象として、家庭裁判所が決定した報酬を上限として助成を行うなどの施策に取り組んできました。

成年後見制度利用促進法の成立に伴い、さらに、成年後見制度の利用が促進されるような施策に取り組んでいます。

【1】成年後見制度利用促進法

2016(平成28)に成年後見制度利用促進法が施行されたことによって、2017(平成29)年に成年後見制度利用促進基本計画が閣議決定されました。

この基本計画のポイントは、

①後見制度の利用者がメリットを実感できる制度として運用を改善

②権利擁護支援の地域連携ネットワークづくり

③不正防止の徹底と利用しやすさとの調和

であり、低迷している成年後見制度の利用の一層の促進を図るものです。

【2】市町村の役割

成年後見制度利用促進法」及び「成年後見制度利用促進基本計画」に基づき、「市町村計画の策定」や「権利擁護の地域連携ネットワークの構築」といった成年後見制度利用促進に向けた取り組みが推進されています。

【3】A市の取り組み

A市においても、成年後見制度利用促進に向けた取り組みがさまざまになされてきています。

2020(令和2)年 成年後見制度に関するニーズ調査の実施

2021(令和3)年 関連計画に盛り込む形での市町村計画の策定

2022(令和4)年 中核機関「A市成年後見センター」(A市社会福祉協議会に委託設置予定)

この他にも、成年後見制度の利用普及・啓発のための研修会・講演会・市民後見人養成講座実施されています。

【4】市民後見人について

「一般社団法人地域後見推進センター」によると、市民後見人とは「専門職や社協以外の人で、本人と親族関係がなく、主に社会貢献のため、地方自治体や後見関連団体等が行う後見人養成講座などにより、成年後見制度に関する一定の知識や技術、態度を身に付けた上、他人の成年後見人等になることを希望して、家庭裁判所から選任された後見人」のことを言います。

法的に「市民後見人」という用語が規定されているわけではありませんが、老人福祉法においては、市町村は後見等の業務を行うことができる人材の育成をするように求めています。

(後見等に係る体制の整備等)

第32条の2 市町村は、前条の規定による審判の請求の円滑な実施に資するよう、民法に規定する後見、保佐及び補助(以下「後見等」という。)の業務を適正に行うことができる人材の育成及び活用を図るため、研修の実施、後見等の業務を適正に行うことができる者の家庭裁判所への推薦その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

また、成年後見制度利用促進法においても、市民の中から育成し、確保することが求められています。

(基本理念)

第3条2 成年後見制度の利用の促進は、成年後見制度の利用に係る需要を適切に把握すること、市民の中から成年後見人等の候補者を育成しその活用を図ることを通じて成年後見人等となる人材を十分に確保すること等により、地域における需要に的確に対応することを旨として行われるものとする。

 

【5】市民後見人の意義

後見事務を行っている専門職はビジネスであるため、身上監護がおろそかになりがちであり、報酬を見込めない案件の受任には消極的であると一般にいわれています。

これに対して市民後見人は、同じ地域で生活していることから、地域の社会資源についてよく把握しており、また同じ生活者として職務を行うことで、きめ細やかな身上監護を行うことができると考えられます。

また市民後見人は、ビジネスとして後見事務を行うのではないため、後見報酬を期待できない案件についても対応できる可能があります。 

【6】A市における市民後見人養成の流れ

(1)募集

広報・ポスター・ちらし等による募集により受講申し込みを受け付け、市が決定します。

(2)養成講座の実施

①基礎研修の内容

エンディングノート作成

成年後見制度の基本理念と概要

・後見人の業務について…身上監護、財産管理

・対象者と社会資源について…認知症、知的障がい、精神障がい

・市民後見人の実際の体験

・市民後見制度を取り巻く諸制度の基礎…健康保険制度、年金制度

・後見業務の法律基礎知識…家族法、財産法

②実践研修の内容

成年後見制度の基本理念と概要

成年後見人の活動の実際と課題

・A市の現状…介護保険、高齢者、障がい者、生活困窮者への取り組み状況

社会福祉協議会の役割と権利擁護の取り組み状況

家庭裁判所の役割

・被害防止と消費者保護

認知症の理解

・高齢者の権利擁護の実際

・市民後見人活動の報告

・金融機関による権利擁護の役割

成年後見人の実務…書類作成と手続き

成年後見における意思決定支援

・コミュニケーション技術

・演習…事例検討&グループワーク

(3)登録

A市社会福祉協議会が講習修了者の意思確認をした上で登録します。

(4)フォローアップ研修及び法人後見支援員

A市社会福祉協議会が実施するフォローアップ研修を受けながら、法人後見支援員として実務を経験します。

(5)受任調整会議にて推薦

中核機関「A市成年後見センター」(A市社会福祉協議会に委託設置予定)が行う受任調整会議において推薦し、家庭裁判所へ申立てを行います。

(6)市民後見人就任

家庭裁判所の審判によって決定され、A市社会福祉協議会が市民後見監督人や中核機関としてサポートします。

おわりに

成年後見制度の利用が増加することが予想されている中で、後見を担う人材としての市民後見人の果たす役割は大きいものがあるようです。

超高齢社会にあっては、行政におけるすみやかな体制の整備が期待されています。