はじめに
成年後見制度は、自己決定権の尊重、残存能力の活用、ノーマライゼーションといった新しい理念のもと平成12年の民法改正によって導入されました。
成年後見制度には、任意後見制度と法廷後見制度があります。
【1】成年後見制度の概要
(ア)任意後見制度
任意後見制度は、本人に十分な判断能力があるうちに、本人自らが選んだ人に、代わりにしてもらいたいことを契約で決めておく制度です。契約は公正証書で結ぶものとされ、公証役場で手続きをします。本人の判断力が低下した場合に、家庭裁判所で任意後見監督人が選任されて初めて契約の効力が生じます。
(イ)法廷後見制度
法廷後見制度は、本人の判断能力が不十分になった後、家庭裁判所によって成年後見人等が選任される制度です。本人の判断能力によって「補助」「保佐」「後見」の3つの累計があります。
【2】家庭裁判所への申立て
任意後見制度の場合は、家庭裁判所に任意後見監督人の選任申立てを行うことになります。法廷後見制度の場合は、家庭裁判所への申立てによって成年後見人等が選任されます。いずれにしても家庭裁判所への申立てが必要です。
【3】制度利用の手続き
①申立て
(ア)申立てをすることができる人
・本人
・本人の配偶者
・本人の四親等内の親族
(本人の親、祖父母、子、孫、兄弟姉妹、甥、姪、おじ、おば、いとこ、配偶者の親、子、兄弟姉妹)
・検察官
・市区町村長
・任意後見受任者、任意後見人、任意後見監督人(任意後見契約が投棄されているとき)
(イ)申立て先
本人の住所地を管轄する家庭裁判所
(ウ)申立てにかかわる費用
・収入印紙代…800円(後見または保佐開始のとき)代理権または同意権付与の場合は別途費用がかかります。
・登記費用…2,600円
・郵便切手代…後見は3,700円、保佐・補助は4,700円
・診断書…本人の精神状態について記載された診断書
・鑑定費用…改めて家庭裁判所が依頼する医師によって本人の鑑定が行われた場合の費用です。
・申立書作成等…弁護士・司法書士への報酬
(エ)申立てのための書類
・申立書
・診断書および福祉関係者が作成する本人情報シートの写し
・親族関係図
・親族の意見書
・後見人等候補者事情説明書
・財産目録
・収支予定表
・登記されていないことの証明申請書 など
(オ)その他
・申立てをした後は、家庭裁判所の許可を得なければ申立てを取り下げることはできません。
・成年後見人等は、家庭裁判所が選任の判断をするので、必ずしも成年後見人等候補者が選任されるとは限りません。
②調査
家庭裁判所調査官等が申立書記載内容を申立人や候補者から確認します。本人と面会したり、親族の意向を確認したりすることもあります。
③鑑定
改めて家庭裁判所が依頼した医師により、本人の鑑定を行う場合があります。
④審判
審理された上で、後見等開始の審判がおこなわれ、同時に成年後見人等も選任されます。
⑤審判の確定
審判書受領後、即時抗告期間である2週間が過ぎると審判が確定します。
⑥後見事務開始
(ア)成年後見人等は、本人の財産や生活状況を確認し、財産目録及び収支予定表を家庭裁判所に提出します。
(イ)成年後見人等は、今後の生活についての計画と収支予定を立てます。介護サービスや施設への入所契約等を、本人に代わって行います。
(ウ)成年後見人等は、少なくとも年に1回は家庭裁判所に本人の生活や財産の状況等の報告をします。
おわりに
成年後見制度は、裁判所の関与のもとで厳格に運用されます。本人の意思を尊重しながら後見がおこなわれるように、きちんとした手続きを踏んだ上で成年後見人等が選任されています。
現行の成年後見制度は、自己決定権の尊重、残存能力の活用、ノーマライゼーションといった理念が実現するように、その仕組みが考えられていると思いました。