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著作権者の利益を不当に害する場合(パートⅡ)

高等教育の場合における基本的な考え方

高等教育においても初等中等教育と同様な考え方ですが、論文や資格試験などに関しての考え方などが加えられています。

 

①著作物の種類について

  • 市販のプログラムの著作物(アプリケーションソフト)を複製して学生に提供したり、公衆送信したりすることは「不当に害する」と考えられます。ただし、ソースコードをプリントアウトしたり、それを公衆送信したりする場合は市場での流通を阻害するとは言えないようです。
  • 著作権者の許諾を得ずに複製又は公衆送信できる分量については、「授業において必要と認められる限度」とされています。著作物の種類によっては、全体が利用できるのか、部分の利用に限られるのかをはっきりと区別することは困難なので個別に例示がなされています。

短文の言語の著作物や観賞目的の絵画・写真は部分的な利用をすることは同一性保持権の侵害となるようなので、全部の複製・公衆送信をしても利益を不当に害するとは言えないようです。

論文の場合、一部分の利用だけでなく全体を利用する必要があるので、市場に流通していない場合には、全部を複製・公衆送信しても利益を不当に害するとは言えないようです。

なお、授業や解説の動画の中で、影像の一部又は背景として利用されている場合は「不当に害する」とはいえないようです。

  • 授業目的で著作物の全部を複製することが、利益を不当に害することになったり、ならなかったりする次のような場合があります。

ア、一つのコンテンツに複数の著作物が含まれている場合、例えば、放送による映画や番組を全部複製することは不当に害する可能性が高いので、一部分だけ複製する場合があります。その一部分の複製に音楽や言語の著作物が全部の素材として含まれているような場合は、不当に利益を害するとは言えないようです。

イ、論文を全部複製することについては、論文が市場に流通していないこと、論文集などの編集物に収録されている他の論文が授業とは関係ないものであること、定期刊行物の場合は発行後相当時間が経過していることなどを考慮したうえで判断する必要があるようです。

ウ、利益を不当に害するかどうかは、教育関係者がその著作物を一般的な手段で入手できるかどうかがポイントになるようです。容易に入手できる場合は、それを全部複製することは利益を害する可能性が高いこととなり、絶版となっているように入手困難な場合はその可能性が低くなるということです。

 

《全部を複製又は公衆送信しても著作権者の利益を不当に害さない可能性の高い例》

〇採択された教科書中の著作物の利用

〇俳句、短歌、詩などの著作物

〇新聞に掲載された記事などの著作物

〇写真、絵画、彫刻などの著作物及び地図

 

②著作物の用途

  • ある資格試験と関連がある授業の場合、市販の問題集を演習問題として複製・公衆送信することは不当に害する可能性が高いと考えられます。
  • 教科書に掲載されているグラフなどの図版をスクリーンに投影するために複製することは不当に害することとはならないと考えられます。

 

③複製や公衆送信による受信者の数

  • 授業に係わる人数以上に数が多い場合は、認められません。一般的には授業のクラスサイズの範囲を超えているかどうかで判断されます。
  • 授業で、番組を録画したものを再生する場合は、学生の人数分の複製物を作成して配布するようなことは不当に害する可能性が高いと考えられます。

 

④複製・公衆送信・伝達の態様

「態様」というのは、「ものごとのありさま」とか「状態」という意味です。

  • 複製の態様からして、市販のように製本して複製し、教材の用途を超えて他の利用に供するといったようなことは「著作権者の利益を不当に害する」と考えられます。
  • 誰でもアクセスできるオープンなネットワーク環境で公衆送信することは、公衆送信の態様からして「著作権者の利益を不当に害する」と考えられます。ただし、アクセスするためのIDとパスワードで管理するなど、授業の過程でコントロール出来ているかどうかが重要となります。
  • 授業の履修者以外の者に見せるような状態で伝達することは、伝達の態様からして「著作権者の利益を不当に害する」と考えられます。教員が作成する教材からハイパーリンクによってHPなどに遷移させるといったリンクをはるだけの場合は無許諾・無償で行うことができます。

 

おわりに

教育活動においては著作権者の許諾を得ることなく著作物を利用できますが、どのような場合でも許されるということではありません。

関係者が集まって協議がなされているのですが、さまざまなケースがあり、すべてを網羅することは不可能なようです。

そのため、教育における「基本的な考え」が示されており、その考え方を理解した上でICT教育に伴う教育活動を推進する必要があるようです。

 

《参考》

「改正著作権法第35条運用方針」(令和3年度版)

~著作物の教育利用に関する関係者フォーラム~