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初等中等教育における「著作権者の利益を不当に害する」場合(パートⅠ)

 

はじめに

著作権法35条は学校教育の場において著作権者の許諾を得ることなく著作物を利用できますが、その場合であっても、著作権者の利益を不当に害することはできません。

それでは「不当に害する」というのは、どのような場合なのでしょうか。個々のケースで関係者の見解の相違が避けられませんが、授業者や権利者が客観的に説明できるかを基にして、基本的な考え方や典型的な事例を考えていかなければならないようです。

 

初等中等教育の場合における基本的な考え方

①著作物の種類について

  • 市販のプログラムの著作物(アプリケーションソフト)を1つだけ購入して、それを学校のPCにコピーしたり、児童生徒に公衆送信したりすることは「不当に害する」と考えられます。
  • 授業や解説の動画の中で、影像の一部又は背景として利用されている場合は「不当に害する」とはいえないようです。
  • 著作物の全部を複製する場合、放送から録画した映画や番組の全部を複製することは不当ですが、一部分の範囲であれば、授業のために必要な範囲ということで不当とされる可能性は低いようです。しかし、入手困難かつ合理的な手段で許諾が得られないような場合には、全部を複製できることもあるようで、それぞれの個別判断によるようです。

 

《授業に必要と認められる限度内で、全部を複製又は公衆送信しても著作権者の利益を不当に害さない可能性の高い例》

〇採択された教科書中の著作物の利用

〇俳句、短歌、詩などの著作物

〇新聞に掲載された記事などの著作物

〇写真、絵画、彫刻などの著作物及び地図

 

②著作物の用途

問題集やドリルを教師が複製。公衆送信することは著作物の流通を阻害することになるので、著作権者の利益を不当に害することとなります。ただし、児童生徒がドリル等を忘れた場合に、一部をコピーして渡すことは許容されます。

 

③複製や公衆送信による受信者の数

授業に係わる人数以上に数が多い場合は、認められません。ただし、授業参観や研究授業などの場合は、「必要と認められる限度」内と考えられます。

 

④複製・公衆送信・伝達の態様

「態様」というのは、「ものごとのありさま」とか「状態」という意味です。

  • 複製の態様からして、市販のように製本して複製し教材の用途を超えて他の利用に供するといったようなことは「著作権者の利益を不当に害する」と考えられます。
  • 学校や教育委員会等がHPや動画共有サービスといった、誰でもアクセスできるオープンなネットワーク環境で公衆送信することは、公衆送信の態様からして「著作権者の利益を不当に害する」と考えられます。ただし、限定された児童生徒に公衆送信したりすることは、不当に害さないと考えられます。
  • 授業の履修者以外の者に見せるような状態で伝達することは、伝達の態様からして「著作権者の利益を不当に害する」と考えられます。

ただし、オンライン授業で保護者が機器の操作を補助するような場合は、不当に害さないと考えられます。

 

《補償金の範囲では利用できない例》

〇授業の中で、ある同一の本の中から、1回目の授業で第1章、2回目の授業で第2章という様に複製して配布することは不当に害する可能性が高い。

〇授業で利用する著作物(問題集、ドリル、教育用映像ソフト等)を複製し公衆送信することは不当に害する可能性が高い。

〇美術、写真など市販の商品の売り上げに影響を与えるような品質で提供することは不当に害する可能性が高い。

〇市販したり長期の保存が出来るように製本して配布することは不当に害する可能性が高い。

〇組織的に著作物をサーバにストックしてデータベース化することは不当に害する可能性が高い。

 

(パートⅡに続く) 

 

《参考》

「改正著作権法第35条運用方針」(令和3年度版)

~著作物の教育利用に関する関係者フォーラム~