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著作権と教育

はじめに

今後、近い将来に本格的なAI社会が到来し、現在の子どもたちはAIがあらゆる分野で活用される社会となります。AI時代を見据えて、これまでとは異なる教育体制が必要となってきています。

現在、コロナ禍の影響によって急遽注目が集まりましたが、将来に向かって情報通信技術を活用した教育、すなわち「ICT教育」(Information and Communication

Technology)の取り組みが推進されています。

しかしながら「ICT教育」を推進する上では、著作権を巡る課題があります。

アナログ時代と違って、簡単に大量に広範囲に複製できるデジタルの時代に、著作権を教育の中で、どう扱っていくのかが大きな問題となっています。

 

著作権法35条改正

著作権者の正当な利益の保護とICT教育における著作物の利用とのバランスを図るために2018(平成30)年に改正されました。

この法改正によって授業目的公衆送信補償金制度が創設されることになりました。

改正前の著作権法では、学校等の授業で使用する場合、必要な範囲でコピーや遠隔授業での送信(公衆送信)を著作権者の利益を不当に害することがなければ無償で行うことができました。

法改正後は、教員が授業で他人の著作物を用いて作成した教材を生徒の端末に送信したり、サーバーにアップロードしたりすることなど、授業として利用するための公衆送信については、個別に著作権者の許諾を得る必要がなくなりました。

ただし、この制度を利用するためには、教育機関の設置者が補償金を支払う必要があります。

 

一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRASサートラス)

教育機関の設置者が、著作物使用の代価として支払いをする先が、文化庁長官より指定を受けた日本で唯一の授業目的公衆送信補償金管理団体である通称サートラスです。

サートラスに教育機関の設置者が補償金を支払えば、オンライン授業等で著作権者の許諾がなくても著作物を利用できるようになります。

 

著作物の教育利用に関する関係者フォーラム

授業を目的とする著作物利用に関しては、教育関係者、有識者、権利者で構成する「著作物の教育利用に関する関係者フォーラム」が検討を重ねています。

検討の結果は、ガイドラインにあたる「改正著作権法第35条運用指針(令和3(2021)年度版)」として決定・公表されました。

 

サートラスへの補償金額

サートラスは教育機関の設置者に対する補償金の支払いを求めているため、公金としての性質を有しています。

このため文化庁長官に認可申請を求め、文化審議会に諮問された上で補償金額が決定されます。

年間で生徒・学生一人あたり、小学生120円・中学生180円・高校生420円・大学生720円ということのようです。

2020(令和2)年はコロナの影響があり無償とされていましたが、2021(令和3)年度から本制度が有償として本格実施されることが決まっています。

 

著作権法 

(学校その他の教育機関における複製等)

第三十五条 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、公表された著作物を複製し、若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この条において同じ。)を行い、又は公表された著作物であつて公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び当該複製、公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

2 前項の規定により公衆送信を行う場合には、同項の教育機関を設置する者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。

3 前項の規定は、公表された著作物について、第一項の教育機関における授業の過程において、当該授業を直接受ける者に対して当該著作物をその原作品若しくは複製物を提供し、若しくは提示して利用する場合又は当該著作物を第三十八条第一項の規定により上演し、演奏し、上映し、若しくは口述して利用する場合において、当該授業が行われる場所以外の場所において当該授業を同時に受ける者に対して公衆送信を行うときには、適用しない。

 

おわりに

来るべきAI社会に備えて、教育の分野において著作権の新しい動きが進展しています。AI社会というのが具体的にイメージしづらい現状ではありますが、情報技術の進展は私たちの予想を超えるスピードで進んでいくのではないでしょうか。

AI社会というのはデジタルそのものの社会なので、これまでの著作権の概念を転換して対処しなければなりません。そのような、遠くない将来に向けてやって来るAI社会に向けて、教育の面でも著作権に関した検討がなされることが重要であると思いました。