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荒廃農地・遊休農地・耕作放棄地

はじめに

農業人口が減少し、耕作されていない農地が増加しています。このような耕作されていない農地を「荒廃農地」「遊休農地」「耕作放棄地」といった呼び方をしているようです。

それぞれどのような意味を有しているのかを検討します。

【1】「耕作放棄地」

耕作放棄地とは

一般的に耕作されていない農地のことを「耕作放棄地」と呼んでいる場合が多いと思います。「耕作放棄地」というのは農林業センサスにおいて、「以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を作付け(栽培)せず、この数年の間に再び作付け(栽培)する考えのない土地」とされ、農家等の意思に基づき調査把握したものです。

林業センサスという聞きなれない用語が出てきますが、この農林業センサスという調査で使用されているのが「耕作放棄地」という用語のようです。

②農林業センサスとは

(ア)センサスの由来

古代ローマにセンソールという役職があり、5年ごとにローマ市民の数などを調査する役割を担っていました。このことから「センソール」が行う調査をセンサスというようになったそうです。センサスというのは一定の社会集団を対象として、全てを全般的に調査するという意味のようです。

(イ)農業センサスの歴史

日本でも農業の分野において、戦前からセンサスが行われています。

1929(昭和4)年に万国農事協会(FAOの前身)による「世界農業センサス」に基づいた、最初の農業調査が行われました。

戦争で中断してしまいますが、1950(昭和25)年の「世界農業センサス」に参加して以来、10年ごとに参加するとともに、中間年次には日本独自の農業センサスを実施してきました。その後、2005(平成17)年以降は林業と一体的に調査・把握する農林業センサスとなっています。

(ウ)耕作放棄地の調査

林業センサスで「耕作放棄地」が定義され、調査されてきました。2015(平成27)年には、「耕作放棄地」は42万3千haと報告されています。

(エ)「耕作放棄地」調査の廃止

2020(令和3)年農林業センサスにおいては「耕作放棄地面積は、農家の申告による主観ベースの数値であり、平成20年より、農業委員会による客観ベースの荒廃農地の把握が行われていることから、耕作放棄地を把握する項目を廃止」となりました。

【2】「荒廃農地」

(ア)経過

平成23年より農林水産省は「荒廃農地」という用語を用いて調査をしています。

平成20年度より「耕作放棄地」「荒廃した耕作放棄地」として調査されていますが、平成23年以降は「荒廃農地」として調査されるようになっています。

(イ)定義

荒廃農地は「現に耕作に供されておらず、耕作の放棄により荒廃し、通常の農作業では作物の栽培が客観的に不可能となっている農地」で、市町村・農業委員会による現地調査により把握したものとされています。

「荒廃農地」は「再生利用が可能な荒廃農地」と「再生利用が困難と見込まれる荒廃農地」の2つに分類されています。

「再生利用が可能な荒廃農地(再生可能)」とは、再生することによって耕作が可能となる農地です。

「再生利用が困難と見込まれる荒廃農地(再生困難)」とは、農地に復元することが物理的に困難なものや周囲の状況から復元しても継続利用ができないものといった農地です。

(ウ)現状と政策

2020(令和2)年3月、閣議決定「荒廃農地の発生防止・解消に向けた対策を戦略的に進める」との方針を受けて、農林水産省は2021(令和3)年に「荒廃農地の現状と対策」をとりまとめとめています。

それによると令和2年に全国で荒廃農地は28,2万haとなっており、その内「再生可能の荒廃農地」は9,0万ha、「再生困難な荒廃農地」は19,2万haとなっています。

【3】「遊休農地」

(ア)定義

「遊休農地」とは農地法に「第4章 遊休農地に関する措置」とあり、農地法に規定されている法律上の用語です。

農地法32条

一 現に耕作の目的に供されておらず、かつ、引き続き耕作の目的に供されないと見込まれる農地

二 その農業上の利用の程度がその周辺の地域における農地の利用の程度に比し著しく劣っていると認められる農地(前号に掲げる農地を除く。)

とあり、これによって「1号遊休農地」と「2号遊休農地」に分類されます。

(イ)利用状況調査

「遊休農地」については農地法30条において、農業委員会が毎年一回、利用状況調査を行わなければならないと定められています。

第三十条 農業委員会は、農林水産省令で定めるところにより、毎年一回、その区域内にある農地の利用の状況についての調査(以下「利用状況調査」という。)を行わなければならない。

利用状況調査の結果、「遊休農地」は農地の有効利用に向けた措置を講じなければなりません。

(ウ)「荒廃農地」との関係及び現状

「再生可能な荒廃農地」は「1号遊休農地」に相当するもので同じ扱いとなります。

令和2年「荒廃農地の現状と対策」(農林水産省)によると、「荒廃農地」28,2万haの内、「再生可能な荒廃農地」=「1号遊休農地」は9,0ha、耕地面積(令和3年)の内、2号遊休農地は0,7haとなっています。

今後は現場での負担軽減や調査の効率化を目指して、「遊休農地」と「荒廃農地」に関する調査内容を見直し、両調査を統合し一本化する方針を令和3年6月に農林水産省が出しています。

おわりに

これまで農林水産省は、農林業センサスに関する「耕作放棄地」の調査、農水省による「荒廃農地」の発生・解消状況に関する調査、農地法に基づく「遊休農地」の調査を行ってきていました。

しかし、令和2年には閣議決定「荒廃農地の発生防止・解消に向けた対策を戦略的に進める」との方針のもと、農林水産省は「荒廃農地の現状と対策」を打ち出し、政策的に「荒廃農地」の問題に取り組んでいこうとしています。このようなことからも、次第に「荒廃農地」が主軸となる政策が実施される方向となるようです。

耕作放棄地」「遊休農地」「荒廃農地」という言葉は、今後も様々な方面で使用されることになると思いますが、その違いをきちんと認識しておくことが大切だと思います。

 

《参考》農地・荒廃農地について

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令和3年12月農林水産省「荒廃農地の現状と対策」より