はじめに
不動産取引をする時に、過去に生じた人の死に関する心理的瑕疵について、適切な告知や取扱いについてどうするのかは定められたルールはありませんでした。
所管する国土交通省が「宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン」(案)に関するパブリックコメント(意見公募)を実施し、令和3年6月18日(金)をもって締め切られました。
今後、詳細を吟味したうえで夏までに正式に指針が公表されるようです。
ガイドライン制定の趣旨・背景
取引の対象となる不動産に、他殺、自死、事故死などの人の死が発生するなどの心理的瑕疵があった場合、告知の要否及び内容について取り扱っている不動産業者によって対応が異なっています。
どこまで知らせるのか、知らせないのかといった判断の迷いや、理由の如何を問わずに知らせなければならないのであれば単身高齢者の入居を敬遠する傾向も生じてきます。
心理的瑕疵に関して、令和2年より「不動産取引における心理的瑕疵に関する検討会」が設けられ、議論の結果がガイドラインとして取りまとめられました。
本ガイドラインは不動産取引に際して、宅地建物取引業者がとるべき対応に関して取りまとめたものです。
宅建業者が本ガイドラインで示した対応を行わなかった場合、そのことだけをもって宅建業法違反となるものではありません。しかし、心理的瑕疵に関して紛争が生じた場合の民事上の責任については個別に判断されるものであり、本ガイドラインに基づく対応を行ったからといって民事上の責任を回避できるものではありません。
本ガイドラインの適用範囲
対象とする事案は、人の死に関するものであり、居住用不動産です。集合住宅の取引も含まれます。
告げるべき事案について
宅建業者が業務の中で人の死に関する事案を認識した場合、以下のように対応します。
・過去に他殺・自死・事故死・原因が明らかでない死については告知します。
・老衰・病死などの自然死、事故死であっても自宅の階段からの転落や入浴中の転倒事故、食事中の誤嚥など、日常生活の中で生じた不慮の事故による死は告知する必要はありません。ただし死後、長期間の放置等によって臭気・害虫が発生した等でいわゆる特殊清掃が行われたような場合は告知しなければなりません。
調査について
心理的瑕疵物件であるかどうかを宅建業者が周辺住民に聞いて回ったり、インターネットでちょうさしたりして自発的に調査することは必要ありません。
通常の情報収集活動において、売主・貸主から知らされたり認識させられたりした場合は告知しなければなりません。
宅建業者は心理的瑕疵が疑われるような事案については、売主・貸主に告知書等への適切な記載を求め、買主・借主に交付しておくことがトラブルの未然防止と迅速な解決に有効です。
告知について
賃貸借契約については、宅建業者が媒介を行う場合は事案の発生から3年間は、発生時期・場所・死因について借主に告げるものとされます。
ただし自然死、日常生活の中で生じた不慮の事故による死は告知する必要はありませんが、死後、長期間の放置等によって臭気・害虫が発生した等でいわゆる特殊清掃が行われたような場合は事案の発生から3年間は告知しなければなりません。
売買契約については、宅建業者は調査を通じて判明した範囲で、発生時期・場所・死因について買主に告げるものとされます。
ただし自然死、日常生活の中で生じた不慮の事故による死は告知する必要はありませんが、死後、長期間の放置等によって臭気・害虫が発生した等でいわゆる特殊清掃が行われたような場合は、調査を通じて判明した範囲で告知しなければなりません。
おわりに
心理的瑕疵のある不動産を取引する場合、トラブルを防止する観点から宅建業者が果たすべき責務についての一般的な基準が示されました。
買主・借主が納得して取引が行われることが重要なことなので、心理的瑕疵については宅建業者は慎重に扱うことが求められています。
ガイドラインは、2021(令和3)年の夏に、正式に示されることになるので、今一度、確認する必要があると思います。
《参考》国土交通省 不動産・建設経済局 不動産業課
「宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン」(案)
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000219027