はじめに
障がい福祉事業とは、障がい者や特定難病者等が地域で生活を続けていけるように支援する事業で、根拠となる法律は「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(以下、障害者総合支援法)と「児童福祉法」です。
2013(平成25)年「障害者自立支援法」が「障害者総合支援法」に変更され、障害者の定義に難病等が追加されました。
「障害者総合支援法」第1条2においては「全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるもの」であり、「障害者及び障害児が可能な限りその身近な場所において必要な日常生活又は社会生活を営むための支援を受けられること」を基本理念に掲げています。
障がいの有無にかかわらず個人として尊重されるべきであり、共生できる社会の実現を目的として、障がい者・児は個人として当たり前の日常生活を営むための支援を受けることができるということです。
(1)障がい福祉事業を始めるには
法律に基づく「許可」=「指定」が必要で、「指定」されることで行政から「給付」を受けることができます。
(2)障がい福祉事業の「利用者」
①身体障がい者・児 ②知的障がい者・児 ③精神障がい者・児 ④難病患者
以上が「利用者」となります。
(3)「障がい福祉」と「介護」の違い
障がい福祉サービス
「障害者総合支援法」に基づき18歳から65歳未満の障がい者、「児童福祉法」に基づき18歳未満の障がい児を対象としています。
公費と利用者の自己負担を原資にしています。
介護サービス
「介護保険法」に基づき65歳以上を対象としています。
公費、介護保険料、原則1割の自己負担を原資にしています。
(4)障がい福祉事業の仕組み
①利用者が市町村に申請して「受給者証」を発行してもらう。
②利用者は事業者と契約してサービスの提供を受ける。
③利用者へのサービスに対して、事業者は国民健康保険団体連合会(国保連)に給付金の請求を行う。
④国保連は事業所の請求のデータをもとにして、市町村に給付金の請求をする。
⑤市町村は国保連に給付する。
⑥国保連は事業所に給付をする。
利用者へのサービス費用は、事業者が市町村に直接、請求するのではなく、国保連に請求し、国保連が市町村に請求するという仕組みになっています。
事業者と市町村の間に国保連が存在していてチェック機能を果たしているということのようです。
(5)障がい福祉事業の「指定」要件
①法人格が必要
株式会社、合同会社、一般社団法人、特定非営利活動法人(NPO法人)といった「法人」であることが「指定」の条件となっています。
②「人員配置」の基準を満たしていること
実務経験のある「サービス管理責任者」「児童発達支援管理責任者」といった人員を配置する必要があります。
③事業所物件の要件
都市計画法・建築基準法・消防法・障害者総合支援法・児童福祉法・各種条例等に適合していなければなりません。
④その他の要件
近隣住民への説明、駐車スペースの確保、災害対策などがあります。
(6)障がい福祉事業の種類
「障害者総合支援法」にもとづくサービス
①訪問系サービス
ヘルパーが自宅訪問や外出同行といったサービスを行います。
ア、居宅介護
イ、重度訪問介護
ウ、同行援助
エ、行動援助
オ、重度障害者等包括支援
カ、移動支援
②日中活動系サービス
障がい者・児の日常を支援するためのサービスです。
ア、療養介護
イ、生活介護
ウ、短期入所(ショートステイ)
③施設系サービス
施設に入所する障がい者を支援するサービスです。
ア、施設入所支援
④居住系サービス
施設に入所するのではなく、地域における生活を支援するサービスです。
ア、自立生活援助
イ、共同生活援助(グループホーム)
⑤訓練系・就労系サービス
就労することを支援するサービスです。
ア、自立訓練(機能訓練)
イ、自立訓練(生活訓練)
ウ、就労移行支援
エ、就労継続支援A型
オ、就労継続支援B型
カ、就労定着支援
「児童福祉法」にもとづくサービス
①障害児通所系サービス
障がい児が施設に通って受けるサービスです。
ア、児童発達支援
イ、医療型児童発達支援
ウ、居宅訪問型児童発達支援
エ、放課後等デイサービス
オ、保育所等訪問支援
②障害児入所系サービス
ア、障害児入所支援
③相談支援系サービス
ア、計画相談
イ、障害児相談支援
ウ、地域移行支援
エ、地域定着支援
(7)「障害者総合支援法」にもとづくサービスのいくつかの詳細
(a) 「②日中活動系サービス」の「イ、生活介護」について
自宅や支援施設に入居している障がい者への全般的に必要な支援サービスを行います。原則として医師・看護師の配置・食卓が義務付けられています。
(b)「④居住系サービス」の「イ、共同生活援助(グループホーム)」について
地域の中で共同生活を希望する障がい者への支援サービスです。
○介護サービス包括型
事業所で配置した「世話人(家事や相談等の日常生活サービスを行う)」「生活支援員(入浴・排せつ等の介護サービスを行う)」が入所している障がい者への支援サービスを行います。
○外部サービス利用型
「世話人は」配置されているが「生活支援員」は外部の事業所に委託します。
(c)「 ⑤訓練系・就労系サービス」の「エ、就労継続支援A型」について
事業所で利用者の仕事を用意し、就労困難な65歳未満の利用者と雇用契約を結び、最低賃金以上の賃金を支払うという制度です。また、事業所の外で就労する「施設外就労」や事業所の外で実習を行うなどの「施設外支援」という仕組みもあります。
(d) 「 ⑤訓練系・就労系サービス」の「オ、就労継続支援B型」について
一般企業などで雇用されることの困難な障がい者に対して、生産活動や職業訓練等を提供するために事業所は仕事を用意します。月額3000円以上の工賃を支払う必要があります。
(8)「児童福祉法」にもとづくサービスのいくつかの詳細
(a) 「①障害児通所系サービス」の「ア、児童発達支援」について
未就学の障がい児に対して、日常生活における基本的動作・コミュニケーション能力・集団生活への適応などの訓練を行います。
(b) 「①障害児通所系サービス」の「エ、放課後等デイサービス」について
就学年齢(6歳から18歳)の障がい児に対して、放課後や長期休業中において訓練や地域社会との交流等を行います。
(9)サービスを受ける利用者との手続き
①サービスを受けるためには「受給者証」が必須です。
②利用者との契約(重要事項説明書、利用契約書等)
③契約内容報告書を市町村に送付
④アセスメント(利用者との面談)
⑤個別支援会議による個別支援計画の決定
⑥利用者へサービスの提供
⑦モニタリング(サービス管理責任者、児童発達支援管理責任者による実施状況の把握)
おわりに
法令で「指定障害福祉サービス事業者の3つの一般原則(障がい児通所支援は4原則)が定められています。
①個別支援計画の作成
②利用者の人格尊重
③虐待防止
④地域・家庭との連携(障がい児通所支援の原則)
障がいの有無にかかわらず、一人ひとりが個人として尊重される共生社会の実現が、現実となることが重要です。そのためにも障がい福祉事業がきちんとこれらの原則を守って、適正に行われて欲しいと思います。
《参考文献》
「障がい福祉事業の開業・手続き・運営のしかた」伊藤誠 アニモ出版