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私道の補修について

 

はじめに

私道が経年劣化した場合、誰がどのようにして補修すればよいのかは、しばしば問題となる事柄です。

私道は一般の通行ができますが、私道は所有者のものであり、その所有形態も様々です。

私道を共有していたり、多くの人が分割して所有していたり、所有者が不明であったりといった複雑な事情が多々見られます。

こうした私道をどのように管理するのかについて、法務省は「複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書~所有者不明私道への対応ガイドライン~」(平成30年1月 共有私道の保存・管理等に関する事例研究会)を公表しました。

すべてのケースに該当するわけではありませんが、一定の指針が示されました。

ここでは「共同所有型私道」と「相互持合型私道」についての2つの見解を示しています。

「共同所有型私道」について

私道を複数の人が共有している道のことです。共有しているので、民法の共有に関する規定が適用されます。

ア、使用について

各共有者が共有物の全部について、その持ち分に応じた使用をすることができることから、私道を通行したり、その地下を利用したりすることができます。

イ、変更について

各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができません。私道の形状を大きく変更したり、長期にわたって法律上の義務を課す場合とされています。

ウ、管理について

変更に当たらない程度の利用・改良行為は各共有者の持ち分の価格に従い、その過半数で決するとされています。

私道の状態をより良好な状態にしようとする工事や、私道の利用方法の協議といったことです。

エ、保存について

共有物の現状を維持する行為は、各共有者が単独で行うことができます。損傷した私道の補修を行う場合です。

オ、負担について

各共有者は、その持ち分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負います。私道の共有者は、私道の補修などの管理のために必要費・有益費を持ち分に応じて支払わなくてはなりません。

ちなみに、維持に必要な費用は必要費、価値を増加させるような費用は有益費とされます。

 

何らかの工事をしようとする場合、共有物の変更、管理、保存のいずれに当たるかは、個別事情により明確に区別できるわけではなく、諸般の事情を考慮して決せられるものとされています。

「相互持合型私道」について

民法上の共有関係にない私道のことです。私道に隣接している複数の宅地所有者が、分割された私道の各筆をそれぞれ所有しているという形態です。

私道を縦に分割して①宅地所有者に分属するパターンや、②私道を横に切り分けて宅地所有者に分属するパターンなどがあります。

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法律関係

私道の各土地所有者は、互いに各自の所有宅地のために、通行地役権を設定していると考えられています。

地役権というのは、自分の土地(要役地)のために他人の土地(承役地)を利用することができる権利のことです。

判例では、分譲者が私道を開設し私道敷地を分割して各分譲地の買受人に譲渡した場合、各分譲地譲受人間において黙示の通行地役権が設定されるとした事例があります。

通行地役権の効力

通行のみならず、ライフライン上下水道等)の設置・利用を含むことが通常です。

要役地所有者は地役権に基づき必要な限度で、承役地を使用することを承役地所有者

に受忍させることができます。

承役地に損傷が生じた場合、要役地所有者は通行の目的を果たすために道路補修工事を実施することができるということです。

財産管理制度

私道の工事等を行うために私道所有者の同意を求めようとする場合、共有者の所在や相続人が不明なために同意を得られない場合にどうすればよいのでしょうか。

このような場合には、財産管理制度を利用する方法があります。

財産管理制度には①不在者財産管理制度、②相続財産管理制度があります。いずれの制度も、利害関係人又は検察官が家庭裁判所に申し立て、財産管理人が選任されて、財産の管理を行います。

利害関係者とみなされる、私道の工事等を希望している共有者が申し立てを行い、財産管理人より同意を得て、工事を実施することができます。

解散した法人の場合

法人が解散した場合には、法律に基づき,清算手続が開始されます。

清算人となる者がいない場合には,利害関係人の申立てにより,裁判所が清算人を選任します。

清算人は清算法人を代表するため、私道の工事を行おうとする者は、清算人の同意を得て工事を行うことができます。

清算結了の登記がされた法人であっても、残余財産があることが判明した場合には、残余財産の清算手続を行うため,裁判所に清算人の選任の申立てを行うことが可能であると解されています。

おわりに

法務省によるガイドラインは、所有者が不明な場合に解決のための一定の方向性を示したものですが、現実問題としては手間も費用も掛かるのではないでしょうか。

住民同士の話し合いによってスムーズに解決できれば、それに越したことはありません。

当事者の話し合いによって解決するためにも、ある程度、私道補修に対する補助金制度といった行政の対応(市によってはあるようです)があるといいなと思います。