はじめに
遺言を残した人は、遺言の内容が確実に実現することを望んで遺言を書きます。もし遺言の内容が実現しないのであれば、遺言を残す意味はありません。
遺言の内容が実現するかしないかは、自分が死んだ後のことですから、どうすることもできないわけです。そこで遺言執行者の制度が設けられています。
(1)遺言執行者の権利義務と効果
民法の規定により、遺言執行者は遺言の執行に関する権利義務を有し、相続人に対する効力を有するとされています。遺言執行者が遺言の内容を実現するということです。
第1012条 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
第1015条 遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。
(2)遺言執行者の指定
通常、遺言執行者は遺言で指定され、遺言執行者が任務遂行に必要と認めた場合は、第三者に任務を行わせることができます。遺言執行者がいない場合、利害関係者の請求によって家庭裁判所が選任します。
(3)遺言執行者の任務
①執行の着手
公正証書や遺言保管制度によって保管されている自筆証書遺言については、ほぼすぐに着手できるが、それ以外の自筆証書遺言についてはまず検認手続きを取ってからとなります。
②就職通知
民法では「遺言執行者は、その任務を開始したときには、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない」とされています。
遺言執行者の通知の方法については、明文上の決まりはないようです。
もし、遺言内容が遺留分を侵害するものであった場合には、相続人がいつ遺言内容を知ったのかが重要になるので、時期を明確にする方法で通知したほうが良いと考えられます。
第1007条 遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
2 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。
遅滞なくというのは1週間~1ヶ月以内のようであり、もし遅れると損害賠償や遺言を隠匿したものとされます。
③就職通知の意義
遺言執行者の通知が行われることによって、相続人による遺産の処分行為等を防ぐことができますが、善意の第3者には対抗できません。
執行が遅れたために善意の第3者が取得し、遺言の内容が実現できないことになると、責任を問われることがあるということです。
(遺言の執行の妨害行為の禁止)
第1013条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
2 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
④相続人の確定
遺言執行人の就職調査を通知するためにも、遺言書作成時に相続人調査を行って相続関係説明図を作成しておくことは重要です。
⑤相続財産の調査
遺言執行者は遅滞なく、相続財産について財産目録を作成して、相続人に交付します。
第1011条 遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
⑥遺留分侵害額請求がされた場合
遺留分侵害額が請求されるのは、受益者又は受贈者であり、遺言執行者として対応するわけではないということのようです。
第1046条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
⑦遺言執行者の「復任権」
遺言の内容によっては、専門家に任せた方が適切な場合があることから、遺言執行者は第3者に任務を負わせることができます。
第1016条 遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
2 前項本文の場合において、第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは、遺言執行者は、相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。
⑧執行の終了
遺言執行者には委任に関する民法の規定が準用されるので、相続人等に対して、任務完了の通知をしておかないと、任務完了を対抗できません。また、相続人等に対して任務完了後、遅滞なく履行の顛末を報告しなければなりません。
おわりに
遺言者の生前の意思を受け継ぎ、遺言の執行に関して重大な責任を有する遺言執行者です。
遺言執行者に就職した場合、その職責の重要性を自覚してスムーズに相続が行われるよう最善を尽くすことが大切だと思いました。
《参考》
日行連 中央研修所 研修サイトより
「遺言・遺言執行・死後事務委任等について」神田公証役場 公証人 小島 浩
「行政書士のための遺言・相続 実務家養成講座」竹内 豊 税務経理協会