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任意後見制度について

はじめに

成年後見には次の2種類があります。

1,法定後見とは、裁判所の手続によって後見人が選ばれて後見が開始されます。裁判所が申し立てによって、保護を必要とする人に対して成年後見人・保佐人・補助人を選任するものです。

2,任意後見とは、制度を利用しようとする人で、本人が後見人を選任するものです。

任意後見については、1999(平成11)年、新たに「任意後見契約に関する法律」(任意後見法)が制定されました。

第一条 この法律は、任意後見契約の方式、効力等に関し特別の定めをするとともに、任意後見人に対する監督に関し必要な事項を定めるものとする。

任意後見制度の仕組み

判断力が低下した時に備えて、元気なうちに身上監護や財産管理といった法律行為に関する事務を任意後見人に委任できるようにしておきます。

任意後見人による不正を防ぎ、その任務を全うするように、家庭裁判所が任意後見人を監督する任意後見監督人を選任して、家庭裁判所が間接的に任意後見人を監督します。

後見を受ける人の自己決定を尊重し、本人の保護を図ることを調和させる制度として設けられました。

任意後見契約の発効

任意後見契約を締結したからといって、すぐに契約の効力が生じる訳ではありません。

本人の判断能力が不十分となった場合、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者が家庭裁判所に申立て任意後見監督人が選任されることによって効力が発生します。

このため、任意後見契約の締結と発効の間には、時間的な乖離が生じることとなります。

任意後見契約の利用形態

任意後見契約を利用しようとする場合、次の3つの類型があります。

①将来型

将来を見据えて「転ばぬ先の杖」として誰かに託すために、任意後見契約のみを締結しておくものです。

②即効型

判断能力が衰えてはいますが、契約を締結できる程度(補助程度)には判断能力がある場合のものです。

③移行型

任意後見契約の締結と同時に財産管理等の契約も締結し、将来、判断能力が低下した場合に任意後見契約に移行するものです。見守り契約・財産管理等の契約を経て任意後見契約を締結するような、段階的なものもあるようです。

3つの類型がありますが、現状では③移行型が大多数を占めており、②即効型はほとんどないようです。

任意後見の利用状況

2019年末の時点で、法定後見制度は22万人あまりが利用していますが、任意後見制度は2,600人ほどの利用にとどまっています。ただ、この数字は家庭裁判所に申し立てをして任意後見監督人を選任した場合の数字で、任意後見受任者ではあるけれども家庭裁判所に申し立てていない場合がかなりあるようです。

いずれにしても任意後見制度の利用者が少ないことから、国は2016(平成28)年に「成年後見制度の利用の促進に関する法律」を制定して、任意後見の利用促進を図っています。

任意後見制度の手続き

《判断力が低下する前の段階》

①本人と専門家が相談して、任意後見受任者と契約を交わす準備をします。

②任意後見契約は公正証書で作成する必要があります。(任意後見法3条)公証役場で公証人と本人が面談の上、任意後見契約公正証書を作成します。

第3条 任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならない。

③任意後見契約は公証人が法務局登記官に嘱託して登記します。

《判断力が低下してから》

④本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者が、医師による診断書を作成し、家庭裁判所に申立てをします。

家庭裁判所において任意後見監督人が選任されます。本人がその意思を表示することができないときを除いて、本人以外の者の請求によって任意後見監督人を選任する場合には、あらかじめ本人の同意がなければなりません。

⑥任意後見監督人が選任されると、任意後見契約の効力が生じ、任意後見人が後見事務を開始します。

《本人の死亡》

⑦本人の死亡によって、任意後見契約も終了します。終了後2か月以内に終了の経過や結果を任意後見監督人に報告します。

法廷後見と比較した任意後見のメリットとデメリット

《任意後見のメリット》

・本人が希望する人に依頼ができる。

・依頼内容や報酬などを、あらかじめ決めておくことができる。

・判断力が低下する前の生前事務委任契約から、死後事務委任契約までトータルでサポートを受けることができる。

《委任後見のデメリット》

・任意後見監督人の選任のタイミングを見定める必要がある。

・任意後見監督人の報酬が発生する。

・任意後見契約の発効前は、事務報告が本人のみとなっているため、チェック機能が十分あるかどうかが問題となる。

・法廷後見にあるような本人の行為に対する同意権・取消権がない。

任意後見人の事務

任意後見人の事務は、本人が必要と判断して契約した委任事務であり、その委任事務を処理するために代理権が付与されることとなります。

付与される代理権は、法務省令に規定されている様式の代理権目録に記載されます。この代理権目録に記載されていない事務は、任意後見人の事務の範囲外です。

婚姻関係、医療行為、入院入所等の強制行為など、及び介護等の事実行為についても代理権はありません。

おわりに

高齢化が進むとともに、認知症による認知能力の問題がクローズアップされている状況の中で、任意後見制度の仕組みは認知能力の低下した高齢者を守る上でも役に立つ仕組みだと思います。

しかし、金銭的な負担が大きいことや制度の仕組みが分かりにくい、どうやって適切な後見人を選任するかといった様々な課題が存在するようです。

様々な課題を解決し、有効に任意後見制度が活用されることで高齢者が安心できる社会が形成されるのではないでしょうか。

 

《参考》

「任意後見制度について」神田公証役場 公証人 小島浩(2021,3 NO580 日本行政)