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尊厳死宣言について

はじめに

社会が高齢化するとともに、医療の発展に伴う終末期医療の在り方に深く関係する「尊厳死」について、どう考えて、どう対応していくか、が課題となってきています。この「尊厳死」を巡っては、医療・福祉・法制度といった各方面で議論が深められてきました。

【1】「尊厳死」とは

自分の病気が治る見込みがなく死期が迫ってきた時に、自分の意思で延命治療を拒否するなど、死のあり方を選ぶ権利があるとする考え方です。

安楽死」という言葉がありますが、「安楽死」には「積極的安楽死」と「消極的安楽死」の2種類があるとされ、「消極的安楽死」を「尊厳死」と呼んでいるようです。

ちなみに「積極的安楽死」とは、死期の迫った末期患者に対して、直接、薬物等によって人為的に死期を早めることです。

法的に「安楽死」「尊厳死」が認められているわけではありませんが、「尊厳死」については1992年に日本医師会、1994年に日本学術会議が認めており、広く認知されている状況です。

【2】厚生労働省

平成30年、厚生労働省は「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を作成しています。

①本人の意思確認ができる場合

本人と十分に話し合いをしながら、本人の意思決定を基本とした方針を決定する。時間の経過等による本人の意思の変化に対応した情報提供や説明を行う。本人の意思表示が十分でなくなることもあるので、家族等との話し合いも必要である。

②本人の意思確認ができない場合

家族等が本人の意思を推定できる場合は、その推定意思を尊重する。家族等が本人の意思を推定できない場合は、医療・ケアチームが家族等と十分に話し合う。家族等がいない場合、もしくは家族等が判断を医療・ケアチームに委ねる場合は、医療・ケアチームが慎重に判断し再残の方針をとる。

【3】日本医師会

平成29年、生命倫理懇談会が「超高齢社会と終末期医療」についてまとめています。

①原則

本人の意思が分からず家族もいない場合、患者の最善の利益を基準にして判断する。

本人の意思がはっきりしないが家族等が存在している場合、家族等で見解が一致しなかったり、本当に本人の意思を実現しようとしていないことがあるので、本人の意思決定を尊重する努力がなされるべきである。

あくまで、本人による意思決定支援を行うことが本来である。

②事前指示書

(ア)リビング・ウィル

リビング・ウィルとは、延命治療をどこまで行うかについて、あらかじめ本人が文書で明示的に示しておくもの。理解は進んでいると考えられるが、いまだに十分に広がっているとはいえない。

法的効果が明確でない、作成者がどれだけ理解して作成されたかが問われる、いざ現実になった場合の症状と作成時点とは異なっているといった課題がある。

(イ)医療者の取り組み

医療者がイニシアティブをとって、カルテに希望を記録し、実際の病状を踏まえた上で、主治医と患者がもしもの時のための話し合いに取り組む。

③高齢者への意思決定支援

(ア)独居生活者の場合

意思決定能力があるうちに、ケアを提供する者ができるだけ情報収集をしておく。

意思決定能力が失われている場合、それまでにかかわってきた人たちに話を聞く努力をするべきである。何も情報が得られない場合は、従来通りの生命保存的選択をすることとなる。

(イ)在宅での支援

かかりつけ医・看護師・介護職・家族等を含めての話し合いを繰り返しすることで、高齢者の尊厳ある死を実現する方策を探る。

(ウ)成年後見制度

成年後見人には医療的判断をする権限がなく、終末期医療の場合に役に立たない。任意後見の場合を除いて、本人の意思によるものではなく、裁判所によって成年後見人が任命されるため、意思決定支援の方策にはなりえない。

【4】日本尊厳死協会は

1976年に尊厳死を社会で認めてもらうことを目的に設立され、リビング・ウィル(終末期医療における事前指示書)を提唱しています。

リビング・ウィルとは、治る見込みのない病態に陥り、死期が迫ってきたときに延命治療を断る文書で、主な内容は

・不治かつ末期になった場合、無意味な延命措置を拒否する

・苦痛を和らげる措置は最大限にして欲しい

・持続的な植物状態に陥った場合は、生命維持措置をとりやめて欲しい

といったものです。

【5】日本公証人連合会

リビング・ウィルのような尊厳死に関する事前指示書は法的な効果が明確ではありません。そこで「尊厳死宣言」を公正証書として、本人の意思を明確に残すことができます。

ただ「尊厳死宣言」という本人の意思が尊重されるのは当然ですが、医療現場では必ずしもそれに従わなければならないわけではありません。過剰な延命治療にあたるかどうかは医学的判断に寄らざるを得ないからです。

もっとも「尊厳死宣言」がある場合は、医師はそれに従っているようなので、あらかじめ家族等に「尊厳死宣言公正証書」を託しておいても良いのではないでしょうか。

おわりに

尊厳死」については、長年にわたる日本尊厳死協会の活動もあって、広く認知されるようになってきています。しかし、法的な整備がなされていないために定義も明確でなく、医療従事者等の関係者の努力によって試行錯誤しながら進められてきているようです。個々人の命の問題であるがゆえに、法整備にも難しさがあるのではないでしょうか。

結局、本人の意思をいかに尊重するかが重要な点であり、そこを重視した議論が展開されていって欲しいとおもいます。