~前回の「配偶者居住権について」からの続き~
【Ⅰ】仮払い制度について
背景(遺産分割前の預貯金債権について)
平成28年、最高裁は預貯金債権について、相続開始と同時に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるとしました。
それまでは、相続分に応じて相続開始と同時に法律上当然に共同相続人に分割されるものでした。
この判決によって、相続人が金融股間から預貯金を引き下ろす際に、共同相続人の同意を求められるということになりました。
自らの相続分を遺産分割が成立するまで引き下ろすことができなくなると、共同相続人の同意がない場合、当面の生活費や葬儀経費の支払いに困難が生じる恐れがあります。
そこで相続開始後の資金需要に対しての新しい「仮払い制度」が創設されました。
(1)仮払い制度とは
相続された預貯金債権について、生活費や葬儀費用の支払いなどに対応するため、遺産分割前に払い戻しが受けられる制度です。
(2)払い戻しできる額は
相続開始時の債権額×3分の1×法定相続分
ただし、金融機関ごとに150万円までを限度とします。
(3)《例》
被相続人A、配偶者B、子CでAの遺産がS銀行の4,800万円の場合。
4,800万円×3分の1×2分の1(法定相続分)=800万円
計算は800万円ですが、150万円が限度なので、配偶者BはS銀行に対して150万円の払い戻しを受けられます。
(4)仮払い制度に必要な書類
払い戻し請求者が相続人であること、および、払い戻し請求者の法定相続分が確認できる書類が必要になります。
①被相続人の除籍謄本、戸籍謄本又は全部事項証明書
②相続人全員の戸籍謄本又は全部事項証明書
③払い戻し希望者の印鑑証明書
(5)遺産分割前に預貯金を処分した場合
遺産分割前に遺産を処分した場合、処分していない場合に比べて計算上の不公平が生じます。
不公平をなくすため、906条の2が新設され、遺産分割前に遺産が処分されたとしても、共同相続人全員の同意によって、処分された財産を遺産とみなすことができます。
このとき、処分を行った相続人の同意を得ることはありません。
【Ⅱ】特別寄与制度について
(1)特別寄与制度とは
相続人以外の被相続人の親族が、無償で被相続人の療養看護を行った場合、相続人に対して金銭請求ができます。
《例》
義母Aの療養看護について、長男Bの妻Cが貢献した場合、妻Cは「特別寄与者」として一定の財産の取得が認められます。
(2)特別寄与者の範囲
被相続人に対して無償で療養看護に努めた被相続人の親族に限定されます。
(3)特別寄与料について
①請求
特別寄与者が相続人に対して、特別寄与に応じた額の金銭の支払いを請求します。特別寄与料の額は協議によりますが、協議が不調の場合は家庭裁判所に申立てます。
②負担
特別寄与料は各相続人が法定相続分に応じて負担します。
③期間
相続開始及び相続人を知った時から6カ月、又は相続開始から1年です。