相続法改正の経緯
平成25年、最高裁大法廷において婚外子相続分の違憲が決定したことで、民法が改正され「嫡出でない子の相続分を嫡出子相続分の2分の1とする」という900条4号ただし書き前段が削除されました。
「嫡出でない子」のことを非嫡出子といい、それまでの民法では、法定相続分が婚姻関係にある男女から生まれた子である「嫡出子」の2分1とされていたというものです。
民法改正によって嫡出子と非嫡出子の法廷相続分については平等になりました。
また、このことを契機として相続法制の見直しが議論されていきます。
相続法改正の概要
平成30年に民法一部改正法、遺言書保管法が公布・施行されたことによって、新たに次のような内容の事柄が創設されることになりました。
①配偶者居住権
②仮払い制度
③自筆証書遺言保管制度
④特別寄与制度
配偶者居住権
配偶者居住権と配偶者短期居住権の2種類あり、生存配偶者の生活保障のために創設されました。
①配偶者居住権とは
法改正前の制度は、配偶者が相続によって居住建物を取得した場合、預貯金等の財産を受け取れなくなって、たちまち生活費に困ることになるようなものでした。
このため法改正によって、配偶者居住権が新設され、建物の価値を「所有権」と「居住権」に分けて、残された配偶者は建物の所有権を持っていなくても居住権を取得することで引き続き自宅に住み続けられるようになりました。
配偶者は自宅での居住を継続しながら、他の財産を取得できるというものです。
②《例》
被相続人=A、配偶者=B、子=C
遺産として自宅2,000万円、預貯金3,000万円の合計5,000万円
改正前…相続人であるBとCが2,500万円ずつ相続することになりますが、配偶者のBが自宅2,000万円を相続した場合、預貯金は500万円ということになります。これでは生活費として心もとなく、生存配偶者の生活保障としては十分ではないということになります。
改正後…配偶者居住権を1,000万円とした場合、自宅の負担付所有権を1,000万円となり、配偶者Bの相続分は、配偶者居住権1,000万円+預貯金1,500万円の合計2,500万円となります。これであれば配偶者Bの預貯金が、改正前に比べてかなり多くなっているので生活費として当面は安心できるということになります。
子Cの相続分は負担付所有権1,000万円+預貯金1,500万円となります。
③取得するには
(a)配偶者が、被相続人の財産に属した建物に、相続開始の時に居住していたこと。
(b)次のいずれかに該当する場合
*遺産分割で配偶者居住権を取得するとされたとき。
*配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき
(c)居住建物を配偶者以外の者と共有していないこと…第3者に配偶者による無償の居住を受任するという負担を生じさせないため
④存続期間
原則として生存配偶者の終身であり、死亡によって消滅します。
⑤効力
登記…居住建物所有者は配偶者に対して配偶者居住権設定登記を備えさせる義務があります。
配偶者…用法順守義務、善管注意義務があります。
居住建物の費用負担…固定資産税等の必要費は配偶者の負担、風水害による修繕費等の特別な費用や増改築による有益費は建物所有者の負担とされています。
⑥その他注意点
*負担付所有権を有する者は土地建物を売却することができますが、配偶者居住権が設定されているので第3者が住むことはできません。
*配偶者所有権を利用できるのは法律上の配偶者のみです。
*配偶者と子どもAとBの2人の場合、配偶者が配偶者居住権で自宅に住み続け、所有権を子どもAが持った場合、母親が亡くなると、子どもAは完全に自宅の権利を取得することになります。その場合、子どもBに不平等感が残ってしまいます。
配偶者短期居住権について
①配偶者短期居住権とは
改正前には、被相続人Aと配偶者Bが、Aの建物に居住していた場合、AB間で使用貸借契約が成立していたと推認されます。ところが、Aが遺言で建物を第3者に遺贈した場合、配偶者Bは保護されなくなってしまいます。
改正によって、被相続人Aが配偶者Bの居住に反対していても、最低6カ月は配偶者の居住権が保護されるというものです。
②要件
*被相続人の建物に、配偶者が相続開始時に無償で居住していたこと。
*相続開始時に配偶者居住権を取得していないこと。
③期間
配偶者短期居住権は、相続開始時に自動的に付与されますが、次のように有効期間の制限があります。
*配偶者を含む共同相続人間で遺産分割をする場合、遺産分割によって建物の帰属が確定した日か、相続開始から6カ月経過する日の遅い方の日までです。
*建物取得者による申し入れ日から6カ月を経過する日までです。
④その他注意点
*配偶者短期居住権は登記できませんし、期間の制限があるので、期間の経過によって退去しなければなりません。
*用法順守義務、善管注意義務があります。
*必要費用は、配偶者短期居住権を取得した配偶者が負担します。
~次に続く~